ん?なんか今日客多くね?




の意識は手元のサックスとこのレストランの客に向けられていた。ピアノに合わせ、ゆったりとしたメロディーを奏でる。 暗めな店内と音楽が相俟って客たちを店内の空気に酔わせる。店のドアからぞろぞろと体格の良い男性達がはいってきた。 中には子供もいた。子供の来る時間帯じゃないことが気になったけど今は演奏に集中することにしよう。 そして の意識は店内のムードを作り出すサックスひとつに向けられた。 演奏が切りよく終わり、ピアノの男の子と私は休憩に入った。事務室のイスに座って紅茶を飲んでいると、ピアノの男の子に話しかけられた。




ちゃん、なんかリクエストしたい曲があるって言うお客さんがいるんだけど受ける?」




何回もこのレストランで演奏していたけど、お客さんからリクエストを受けるのは初めてだった。 嬉しくて快く受け入れたら楽譜を渡された。え?もしかしてこれ今から覚えるの? 無謀だろうと思いつつ、楽譜を一通り見てみたが、曲はそこまで長くもないし、調子は難しくはなかったので何回か練習した。




「おお、上手上手。もう本番いける?」
「あ、おくれてごめんね、じゃああんまりお客さん待たせる訳にいかないから行こっかー」





そういえば、誰がリクエストしたんだろう。演奏台に立ち、周りを見渡す。お客さんたちはそれぞれの食事やおしゃべりに夢中だった。 わかんねーや。 楽譜を譜面台にのせ、サックスに息を吹き込む。 ピアノもそれに合わせ、ポロンポロンと音を奏でる。 その2つの二重奏は互いに綺麗に重なり合い、 仄暗いライトに照らされてそれまでゆったりとしていた音楽に合わせて食事や会話をしていたお客さんもこの曲には集中して耳を傾けた。 演奏が終わると、お客さんから拍手が沸いた。初めてのお客さんからの拍手をいただけた。嬉しい。 ああ、たぶん今自分の顔をみたらとってもニヤついてそう。 ふと時計を見たらうわぁ、もう2時だった。この時間でお客さんがこんなにって…何かあったんかな? ポンと肩を叩かれた。振り向いたら店長の奥さんがいた。




「はい、カプチーノだけどどうぞ。」
「…あ、ありがとうございます。」
「いえいえ。」




奥さんはにっこり笑って2人にカプチーノをくれた。あったかいなぁ…。 カプチーノを飲み終え、店を後にする。街灯のない路地を歩いていると、突然サックスの入ったケースが引っ張られた。 強く引っ張られたけど大切なものなのでケースにしがみついてはなさない。 放せ!とかいわれたけどそれはこっちのセリフだクソ野郎。 ふと引っ張る力が弱まった。諦めたのかな?とか思ってたらこんどは路地の壁に押し付けられて、うっと声を漏らしてしまった。 革のロングコートをめくられてシャツが無理やり破かれた。 ヤバい、必死で抵抗しようとするけど体が動かないし 声も出ない。何ビビっちゃってんだ?私。




「っ…!!―――――っ!!!」




前のほうからごんって音がした。 ぎゅうと瞑っていた目をゆっくり開けたら、前にいた男は地面に崩れた。 雲間から月が顔を出すと、もう一人、人が立っていた。月の逆光で顔はよく見えないけど身長的に男の人かな? 風に揺れる銀髪がさらさらと舞う。揺れる度毛の一本一本が光って見えた。 そうだ、お、お礼言わなきゃ。




っあ…りが……?」




声がかすれてちゃんと出ない。銀色の人はくるりと背を向けるとその場を去ってしまう。 待って。咳ばらいをしてのどの調子を戻して大きく息を吸う。




「あ、ありがとうございますぅ!!」




聞こえたかな?銀色の人は立ち止って振り返るとまた足を進めた。 その時銀色の人がちょっと笑顔を見せてくれたのはきっと気のせいじゃないと思う。 あ、…私なんてバカなんだろ。大切なこと忘れてた。














What's your




name?














(2008.09.20 思ったより話が長くなっちゃった)